海底火山に伴った海底熱水火山の一つとして、伊豆小笠原弧の水曜海山において採取される熱水試料について溶存気体成分の化学組成ならびに二酸化炭素・メタンの炭素同位体比組成を分析した。この分析の際に熱水試料から溶存気体成分を抽出分離するために用いる真空ラインを本研究費を用いて製作した。 本研究の成果として以下に述べるような知見が得られた。 第一に、海洋性島弧に伴った熱水活動は中央海嶺の活動に伴った熱水活動に比べて溶存気体成分に富むという化学的特徴を有することが明らかになった。例えば、後者では二酸化炭素濃度はほぼ10mmol/kg程度であるのが一般的なのに対して本研究で得られた水曜海山熱水中の二酸化炭素濃度は30mmol/kgである。この事実は、熱水活動の熱源となる島弧マグマがもともと揮発性成分に富んでいるという仮説と調和的である。 第二に、海底熱水活動の溶存気体成分の炭素同位体比組成は日本列島などの陸上の火山活動に伴って放出される火山ガス中の炭素同位体比組成とは、同じ島弧の火山活動に伴うガス放出であるにもかかわらず異なる値を示すことがわかった。例えば、後者の代表的な値が-5--2‰であるのに対して、本研究で得られた水曜海山熱水中の値は-1‰であった。このことは陸上の火山ガスが厚い地殻中あるいは地表面付近で有機炭素などの炭素源を多かれ少なかれ巻き込んでいることを示唆している。これは逆に言えば、海底火山において溶存気体成分を採取することによって初めて、こうした混入のないマグマ成分を直接的に反映する試料を得ることができることを示すものである。
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