研究概要 |
負イオン反応中間体クラスターに関する分光学的研究の緊急性から、それに適した装置開発に重点を置き、当初の計画とは多少異なる方法を用いた。通常の放電で発生する電子の運動エネルギーは電子付着を行うには大き過ぎるので、負イオンクラスターの高効率の生成は望めない。そこで、低速電子の発生による負イオンクラスター生成法が必要となったのである。具体的には、YAGレーザーの2倍波(532nm)をY_2O_3固体表面に照射したときに生じる低速光電子を超音速ジェット中の分子クラスターに付着させるという手法を採用した。生成した負イオンクラスターは、飛行時間質量分析により同定する。分光実験に先立ち、試作したクラスターイオン発生装置に対する性能検査の目的で、水、二硫化炭素、六フッ化硫黄等の試料を用い負イオンの生成を試みた。その結果、水の系では(H_2O)_n^-;n=2,6,7,...<30の生成が確認された。また、これらの水多量体負イオンにアルゴンが付着したクラスターの生成も観測された。さらに、二硫化炭素の系では(CS_2)_n^-;=1,2が生成し、六フッ化硫黄の系ではSF_6^-のみならず、解離性電子付着によるF^-やSF_4^-も検出された。しかし、これらのクラスターイオンの安定な生成が長時間持続せず、分光実験を行うには至っていない。現在までにその原因を究明するための試験的実験を行い、主としてY_2O_3表面の帯電であることを確認した。この点についての改良を施して、試験を行っている段階である。
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