本研究の目的は、凝縮退系に対しても電子状態を高精度で記述する分子理論である多参照多状態摂動法を確立し、遷移金属錯体に代表される凝縮退系の計算の理論上の困難を解決すること、この方法により得られる化学反応のポテンシャル面の解析的微分法の開発をすることであった。本年度は、これらの目的に沿い、1.CrF6の構造に関する研究、2.ベンゼンの励起状態の研究、3.五員環化合物シクロペンタジエン、フラン、ピロールの励起状態の研究を行った。また、解析的微分法の開発は本年度はプログラム開発を行った。 1.CrF6は現在実験的にも理論的にもその構造がOh型、D3h型であるか、興味が持たれている化合物である。従来理論的には、この二つの型のエネルギー差はわずかで、計算方法によって最安定構造が異なることが知られていた。我々は、多参照摂動法を用いて、Oh型が46kcal/mol安定であることを示した。この差は従来の方法と比較して大きく、CrF6の構造はOh型であるとはっきりと結論づけた。 2.3.共約有機分子のUV領域にある励起状態も数eVの領域に多くのエネルギー準位のある凝縮退系である。ベンゼン、および、五員環化合物の励起スペクトル(励起エネルギー、および振動子強度)の計算を多参照摂動法を用いて行った。原子価・リュードベリ励起ともに、実験値と非常に良い一致を示し、励起エネルギーでは、最大誤差でもピロールにおける0.30eVであった。この精度は、多参照摂動法が、励起スペクトルの理論的同定に大きな役割を果たし得ることを示すものである。 2についての論文は発表予定(印刷中)であり、1と3に関する論文が、現在投稿中である。
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