研究をすすめるにあたって、現存の過渡吸収測定系の分光器のグレーティングの交換をおこない、より広い範囲でのスペクトル収集を一度に行なえるように改善した。これを用いて、ソルバトクロミズムを示す色素分子(フェノール・ブルー)の励起状態からの緩和過程を通常の溶液中で測定した。その結果、励起状態の寿命は水素結合性強い溶媒中で長くなること、またこの反応系では熱緩和によるスペクトルダイナミクスはほとんど観測されないことがわかった。さらにこの反応系を超臨界流体中で測定するために、高圧実験装置の整備をおこなった。トリフルオロメタン中での測定結果によれば、励起状態の寿命は溶媒の密度が増加すると短くなる傾向を示すことが明らかとなった。また超臨界流体中においても、当初期待していた熱緩和に伴うスペクトルダイナミクスは観測されなかった。得られた励起緩和速度の溶媒変化並びに密度変化を理論的に説明するために、拡張されたSumi-Marcusの理論に基づき吸収スペクトルのシュミレーションをおこなった。しかしながら、単一の振動モードを取り入れただけでは、無極性の溶媒の方が再配向エネルギーが大きいという不自然な結果となり、反応速度の溶媒変化を再現できないことがあきらかとなった。この問題を解決するために、現在、共鳴ラマン測定を行ない、反応に関与する振動モードを溶媒ごとにしらべ、その結果を用いて更に詳細なスペクトルシミュレーションを行なって考察を進めているところである。
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