本年度は、光カーダイナミクス測定装置の組立およびその性能の評価を行った。現有のフェムト秒Tiサファイアレーザーを光源として、一般的な光カー効果の測定法である、ポンプ光に対しプローブ光の偏光面を45度傾けて試料に照射しポンプ光によって誘起された複屈折をプローブするシステムを組み立てた。透過型の測定では、既に報告されている純液体の回転緩和が再現性良く測定できることを確認した。しかし、サファイアと液体界面での全反射条件では、サファイア自身の複屈折の影響のため、この測定方法で、光カーダイナミクスの測定が困難であることを実験的に明らかとした。そこで、サファイアの複屈折の影響の小さい、前進型縮退四光波混合の光学配置の測定を、増幅したフェムト秒パルス光を光源として行った。厚さ1mmのセル中に入れた液体試料については、既報の実験値を良く再現したデータが得られ、光カーダイナミクスの測定装置として本システムの有用性は確認された。また、本システムの時間分解能は約300fsであった。非常に大きな三次の非線形分極率を持つ二流化炭素とサファイアプリズムとの全反射条件での測定を試みた。サファイアの非線形分極応答に起因した信号がほぼ装置の時間分解能で減衰した後、1ps程度の時定数で減衰する成分が観測された。しかし、この成分は収量が著しく小さくまた再現性に乏しいことから、現時点では目的とする界面層における液体の回転緩和による信号とは帰属できていない。光カーダイナミクスの測定装置の制作という点では、本研究で十分な成果が得られたが、全反射条件での光カーダイナミクスの測定手法の確立にはいたっていない。今後、光学系、測定法の見直しが必要であると考えられる。
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