研究概要 |
本研究の今年度の中心課題である、「ジチアビシクロ〔n.1.1〕アルカン類とOXONE(2KHSO_5・KHSO_4・K_2SO_4)との反応によるジチイラン(3員環ジスルフィド)の合成」において、出発化合物の環歪みと電子吸引性置換基の影響について以下のような知見が得られた。 1.1,4-ジアリール-2,2,3,3-テトラメチル-5,6-ジチアビシクロ〔2.1.1〕ヘキサン(I)とOXONEの反応は10時間程度で反応が終了し、(I)は、2,2,4,4-テトラメチル-1,5-ジフェニル-6,7-ジチアビシクロ〔3.1.3〕ヘプタン、(II)よりも高い反応性を示した。この反応では、対応する1-フェニル-1-(1,1,2,2-テトラメチル-3-フェニルプロピル)ジチイランは溶液中でのみ安定に存在し単離には至らなかったが、ジチイランに特徴的な反応性によりその生成を証明した。また、2つのアリール基をフェニル基からp-CF_3C_6H_4基に換えることで、ジチイランの溶液中での安定性が増すことがわかった。 2.1,6-ジアリール-2,2,5,5-テトラメチル-7,8-ジチアビシクロ〔4.1.1〕オクタン(III)とのOXONEの反応は数日後でも原料が消失せず、(III)は6,7-ジチアビシクロ〔3.1.1〕ヘプタン(II)よりもOXONEに対して不活性であることがわかった。また、この反応ではジチイランの生成は認められなかったが、対応するジチイランオキシドを単離することができた。単離されたジチイランオキシドの安定性は、2つのアリール基がフェニル基の場合より、p-CF_3C_6H_4基あるいはm-FC_6H_4基の場合の方が相当安定であり、ここでも電子吸引性置換基の安定化効果が見られた。 3.結論として、本反応においては、出発物の環歪みの大きいほど反応が速く〈〔(I)>(II)>(III)〕、電子吸引性置換基の導入によってジチイラン誘導体の安定性が増大することが明らかになった。 4.また、本研究の過程において、OXONEのかわりに、過塩素酸塩存在下に次亜塩素酸ナトリウムを用いると、ジチイランが、効率良く高収率で得られることを見いだした。
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