研究概要 |
シクロヘキサンを結晶溶媒として含むsyn-tricyclo[4.2.0.0(2,5)]octane誘導体結晶に、X線を照射するとX線回折強度がわずか数時間で変化し、結晶構造解析の結果得られた構造が中央部に八員環をもつcis,cis-1,5-cyclooctadiene誘導体になっていることから、結晶相で四員環開裂反応を起こすことがわかった。しかし、この反応は速度が速いため通常の4軸型のX線回折計では反応過程の分子構造を観測することが困難である。そこで、本研究では、低分子結晶用に開発された、IP(イメージングプレート)ワイセンベルグカメラを使って、数時間以内に全回折強度データを測定することにより時分割結晶構造解析を行ない、結晶相反応の動的過程を調べた。試料結晶に反応を起こす要因を確定するために、結晶を結晶溶媒とともに封じ、低温(243K)で可視光を遮って測定を行ったところ、結晶の格子定数の変化が認められ、結晶相反応がX線で引き起こされていることがわかった。そこで、IPワイセンベルグカメラを使って140分でX線回折強度測定を行った。構造解析の結果、中央部に四員環をもつtricyclooctaneの分子構造が得られ、反応が進行する前の初期構造を始めて観測することができた。さらに、反応の進行を動的にとらえるために同じ結晶について、140分ごとに連続的にX線回折データを収集した。連続した4つのデータセットを使って、結晶構造を解析したところ初期構造(四員環)と開裂反応後の構造(八員環)の乱れた構造を得たので、各々の占有率を精密化した。最初のデータセットでは初期構造が90%以上であったが、それ以降のデータセットでは初期構造の占有率が減少し、反応後の構造の占有率が増加することを明らかにすることができた。また、このような反応速度の速い結晶相反応の過程を解析する上で、IPワイセンベルグカメラを使った測定が非常に有効であることをが明らかになった。
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