本研究では、軸性キラルユニットを含むサイクラム型酸化触媒について合成研究を行った。サイクラム部分を構築するには、(1)軸性キラルユニットのアミノ基をトシル基で保護し、アルキル化してもう片方の軸性キラルユニットとつなぐ方法、(2)軸性キラルユニット2つをあらかじめ金属と錯形成させておき、アルキル鎖を一気にはめ込む方法、の2つが考えられる。 サイクラム類の合成は一般的に(1)のルートで行われているため、(1)のルートから検討した。その結果、途中のアルキル化までは比較的簡単に行えたが、もう片方の軸性キラルジアミンと縮合させてサイクラム環を構築する際に、アルキル鎖がはずれてしまうことがわかった。種々の条件で実験を行ったが、結果は同様であり、原料の軸性キラルジアミンが回収されるにとどまった。 そこでルート(2)を検討した。軸性キラルジアミンを平面4配位をとる金属(銅、ニッケル等)を用いて錯形成させ、種々の2官能化アルカンと反応させた。その結果、ラセミの軸性キラルジアミンを銅錯体とし、架橋鎖にマロンアルデヒドビスジメチルアセタールを用いたときに、サイクラム誘導体を合成することが出来た。得られた錯体を希アンモニア水で洗浄して銅をはずし、遊離のサイクラムを得た(収率53%)。構造解析を行ったところ、メソ体であることがわかった。原料を光学活性なジアミンに変えて同様の反応を行ったが、目的の光学活性サイクラムは残念ながら得られなかった。分子模型で考察すると、メソ体に比べて光学活性体がかなり不安定な配置を取らざるを得ないことが窺れる。そのため、安定なメソ体のみが選択的に得られてきたのであろう。今後は、架橋鎖長や錯形成金属を種々変えてサイクラム環形成反応を行いたい。
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