研究概要 |
Ru_2(O_2CR)_4^+あるいはRh_2(HNOCR)_4^+は三個または一個の不対電子を有するので、これを有機ラジカルで連結することにより鎖状構造を構築し、一次元磁性体を造ろうというのが本研究の目的であったが、その目的遂行のための前段階の研究においても興味深い知見が得られた。以下に示す。 1.ピバル酸モリブデン(Mo_2(O_2CCMe_3)_4)を4,4´-ビピリジン(bpy)で連結した鎖状錯体 これは、まずM_2(O_2CR)_4の架橋配位子との組み合わせで、鎖状構造が形成されるのかを確認するために行った実験である。得られた単結晶のX線構造解析の結果、目的通りbpyの軸配位により鎖状構造が形成されていることが分かった。その内容はBulletin of the Chemical Society of Japan(1994年67巻3125-3127)に報告した。ここで、目的通り鎖状錯体が形成されたのは合成の際、M_2二核により高い溶解性を有すピバル酸二核を用いたことが一つのキ-ポイントであると考えられた。そこでRu_2(O_2CR)_4^+にピバル酸ルテニウム陽イオンを用いることにした。 2.ピバル酸ルテニウム陽イオン(Ru_2(O_2CCMe_3)_4^+)にニトロキサイドラジカルTEMPO(2,2,6,6-tetramethyl-1-piperidinyloxy radical)あるいはPTIO(2-phenyI-4,4,5,5-tetramethylimidazoline-3-oxide-1-oxyl)を軸配位させた錯体 ベンゼン中Ru_2(O_2CR)_4BF_4にTEMPOを反応させた。得られた結晶のX線解析の結果、[Ru_2(O_2CCMe_3)_4(TEMPO)_2][Ru_2(O_2CCMe_3)_4(H_2O)_2](BF_4)_2であることが分かった。さらに、磁化率の温度可変のデータ解析はRu二核とTEMPOの間に、J=_-130cm^<-1>という強い反強磁性的相互作用が働いていることが分かった。この内容は現在Bulletin of the Chemical Society of Japanに投稿中である。さらに、Ru_2(O_2CR)_4BF_4のPTIOとの反応は目的の鎖状錯体[Ru_2(O_2CR)_4(PTIO)]_n(BF_4)_nを与えた。しかし、予想に反し、Ru二核間の相互作用は反強磁性的であり、フェリ磁性の実現による一次元磁性体の達成には至らなかった。この原因については現在検討中である。 3.アセトアミドロジウム陽イオン(Rh_2(HNOCR)_4^+)を架橋二座配位子で連結した鎖状錯体 Rh_2(HNOCR)_4BF_4にbpy等の含窒素架橋二座配位子(L)を反応させることにより、[Rh_2(HNOCR)_4L]_nを合成した。現在、有機ラジカルとの組み合わせについて検討中である。
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