ビスマスチオレート錯体の合成と構造決定 Helicobacter pylori (H.P.)は胃粘膜に棲息するの消化性潰瘍の病原菌である。H.P.抗菌活性を有する新しい無機薬品の開発を目指して、チオレート基含有ビスマス錯体の合成を行った。メルカプトエタノールを配位子とする3種類のビスマス錯体(a、b、c)の合成単離に成功し、aとbの構造をX線構造解析により決定した。a、bともにBi:Ligand=1:1の組成を有する高分子錯体であるが、配位子の電荷の違いが架橋様式の違いに反映され、全く異なったポリマー構造を呈することがわかった。溶液中での構造は互いに等しいことがNMR法により確認された。錯体cについては単結晶が得られなかったため、溶液中の構造をNMRにより決定した。 Helicobacter pyloriに対する抗菌活性とウレアーゼ活性阻害の評価 H.P.の潰瘍誘発に関してはH.P.菌ウレアーゼ酵素が深く関わっている事が知られている。薬として有用であるためにはH.P.抗菌活性だけでなく、ウレアーゼ阻害活性を有することが重要であると考えられている。そこで人の胃から分離培養されたH.P.菌を用いてビスマス錯体(a、b、c)の抗菌活性とH.P.菌ウレアーゼ活性阻害を検討した。これら錯体のH.P.抗菌活性は実際に使用されているビスマス含有潰瘍治療薬(CBS)の抗菌活性とほとんど等しいが、ウレアーゼ活性阻害能はCBSのそれよりもはるかに優れていることがわかった。この結果は、チオレート基含有ビスマス錯体が新しい潰瘍治療薬として有用である可能性を示唆しているものと思われる。
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