目的である低原子価の多核バナジウム錯体としてシュウ酸、ジチオオギザミド、ハロゲン、ヒドロキシ基、及びクロラニル酸で架橋した種々のバナジウム(III)二核錯体を合成し、その構造決定を行った。得られた二核錯体は全てバナジウム核が架橋配位子と同一平面上に存在し、架橋配位子のpπ軌道を通して相互作用するのに適した構造を持つ。バナジウム核はいずれも正八面体構造を取り、基質の配位サイトとなりえる溶媒が上下方向(アキシャル位)から配位していることが分かった。これまで多核バナジウム錯体の合成例は殆ど無く、本研究ではバナジウム核が相互作用した時に新たに発現する性質、及び多電子移動反応性を明らかにしていく上で非常に有用な錯体の合成に成功した。 得られた錯体の酸化還元電位をサイクリックボルタモグラムを用いて測定した結果、クロラニル酸を架橋配位子に持つ二核錯体(図1)はバナジウム核以外にこのキノン型の架橋配位子自身が電子の供給、受容サイトになることが明らかとなった。これらの錯体の多電子移動反応性を明らかにしていくために、メタノール中、水素化ほう素(BH_4)存在下でスチレン等の不飽和有機基質の二電子還元を検討した。その結果、多電子還元能を有するクロラニル酸錯体が高い反応性を示したのに対して、酸化還元活性が低い二核錯体はその還元反応は殆ど進行しなかった。これらの結果から、多電子還元能を持つ低原子価の多核バナジウム錯体が有機基質の還元に適していることが明かとなった。
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