X線ラマン散乱を測定する上で最大の問題点はその信号強度の弱さである。これは、シリカゲルの様な珪素と酸素の混合系の測定を行う場合、いっそう重大な問題となる。本年度は、この困難を克服するための高輝度X線分光器の開発に主眼を置いた。 分光器の開発は以下の様に行った。まず、手持ちの真空槽を改良し、分光器の試料まわりと全光路を真空排気できる様にした。これで、空気の吸収や散乱の影響をうけない測定が可能になった。これに本経費で購入した非対称カットのヨハンソン型湾曲Ge結晶を分光結晶として組み込んだ。X線検出器には位置敏感型比例計数管(PSPC)を採用し、エネルギー範囲500eVに渡る光を一度に測定できる様にした。 この分光器の性能を評価するため、CrKα線を励起光に、非対称カットヨハンソン型湾曲SiO_2結晶を前置結晶として、いくつかの軽元素の単位(ダイヤモンド、グラファイト)と混合物(窒化ほう素、フッ化リチウム)のX線ラマン散乱を試験的に測定してみた。その結果、単体の場合1〜2万秒、混合物の場合10〜20万秒の積算で、ラマン散乱のピークが測定できる事が判った。この時の分解能は6KeVの光に対して4eVであった。これは通常のX線スペクトルの構造を観測するには充分な分解能である。実際、単体のスペクトルでは、ピーク近傍の微細構造(XANES相当)が観測できた。しかし、混合系-今の場合はシリカゲルより高強度が期待される窒化ほう素やフッ化リチウムだが-のX線ラマン散乱から、構造解析に使えるS/NのEXAFS振動を抽出するには至らなかった。 現在、最近開発された"スーパーグラファイト"を分光結晶として用い、分光器をさらに改良する事を検討している。
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