研究概要 |
超純水製造装置の購入により、純度の高い多孔質な二酸化チタン(TiO_2)が合成でき、アメリカ滞在時のデータが再現できるようになった。得られたTiO_2を用いて、気相中におけるトリクロロエチレン(TCE)の光分解反応の実験を行った。生成する塩化水素の量を、滴定法で求めたところ、23℃においては、(生成する塩化水素の濃度)(分解したTCEの濃度)は約2となった。さらに、購入したイオンメーターを用いて、生成する塩化水素濃度を定量し、同じ結果を得た。これらの結果は、副生成物としてモノクロロ酢酸(MCAA)が生じているというFTIRによる実験結果と一致する。そこで、非経験的分子軌道計算(ab initio法)を用いて、TCEからMCAAへの生成反応機構を解明することを試みた。その結果、以下のことがわかった。(1)均一系気相反応においては、CHC1側(C(2))にOHラジカルの付加反応が起こる。他方、TCEのTiO_2への吸着が先行する不均一系気相反応の場合は、CCl_2側(C(1))へのOHの付加反応が起こる。(2)PM3法で、2つの炭素(C(1)、C(2))上の軌道係数を計算したところ、(1)の結果は、frontier軌道の考え方から説明できる。(3)C(1)へのOHラジカルの付加反応は、-41.0kcal/molの発熱過程である。これは、TCEが非常に速やかに触媒上で分解すること、および、TCE変換効率に温度依存性が見られない実験結果と一致する。(4)ラジカル中間体2から3への反応経路のうち最もエネルギー的に可能なのは、塩素ラジカルが脱離後、1,2-ジクロロエセノールが生成し、これがケト-エノール互変異性により、3に変換されるものである。この反応の活性化エネルギーは53.3kcal/molと高いが、水分子の存在により、21.5kcal/molも低下する。これらの結果は、すべに論文にまとめており、J.Phys.Chem.に投稿する予定である。
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