本年度は、遺伝子の機能分化と多様化の過程を分子進化学的手法を用いて明らかにすることを目的として、以下のように研究を進めた。 (1)DNAデータバンクより、セリン・プロテアーゼ遺伝子およびプロテアーゼ・インヒビター遺伝子の配列データを収集し、セリン・プロテアーゼに関する配列データベースの構築をおこなった。とくにクリングル・ドメインをもつセリン・プロテアーゼに注目し配列データの収集をおこなった。 (2)(1)で作成したデータベースを用いて、セリン・プロテアーゼを構成する各ドメイン毎のDNA配列データを用いて分子系統樹の作成をおこなった。 (3)分子系統樹に基づく解析により、セリン・プロテアーゼにおいて、各機能的ドメインの重複、組換えが機能の多様化に密接に関係していることが明らかとなった。 (4)モチーフ探索をおこなった結果、セリン・プロテアーゼの構成成分であるクリングル・ドメインがセリン・プロテアーゼだけでなく、神経伝達系に関係したレセプターと考えられるrorタンパクにも存在することが明らかになった。 (5)上記のような研究の結果、本年度において得られた成果を総合すると、進化の過程において機能的ドメインが単位となって新たな機能分子が形成されていることがあきらかとなった。また、このようにしてできた機能分子は、さらに、それ自身が機能単位として、分子進化の過程において進化の単位として機能している可能性が示唆された。一方、進化の単位としてみた機能的ドメインは、セリン・プロテアーゼの場合にみられるように一連の機能的に密接に関係した遺伝子の中で多様性をもつ一方で、ror遺伝子のような機能的に関係のない遺伝子にも存在し遺伝子の多様化に進化の単位として貢献していることがあきらかになった。 これらの結果は、日本遺伝学会第66回大会(大阪)、J.Mol.Evol.(1995)40:331-336、等に発表した。
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