研究概要 |
ファイトテルマ-タ内の有機物分解過程におけるバクテリア密度と生物群集の変異:西スマトラ産ウツボカズラの1種,Nepenthes alataのピッチャーのサンプルについて,水量,pH,デトリタス量,バクテリア密度,および双翅目昆虫を主とする生息者の密度・バイオマスを測定し,諸変量間の相互関係を統計的に分析した.ピッチャーが開いてから枯れるまでに,特徴的なpH,バクテリア密度,双翅目群集の変化がみられた.開葉後のpHは3以下に下がり,ウツボカズラ由来のプロテアーゼ活性が高いことを示唆していた.バクテリア密度,双翅目昆虫のバイオマスはデトリタス量に依存しており,餌量がこれらの生物個体群の制限要因であることが示唆された.双翅目を中心とした後生動物群集の多様性はこれまでに記録されているウツボカズラ・ピッチャー内群集の中でも高いものがあったが,構成種をバイオマスによって評価するとせいぜい2,3種の消費者・捕食者が食物網の主な構成要素であった.双翅目昆虫の種間のアソシエーションはほとんどの場合ランダムであった.主要な捕食者であるオオカの存在は,群集構成のピッチャー間の変異には有意な効果を持っていなかったが,捕食の結果,ピッチャー内のオオオカに対する餌動物のバイオマスの比は1を下回っていた.ウツボカズラのピッチャーの生物群集は,比較的単純な食物網をもつ系の集合である.地域的にみると,存続時間の限られたパッチ環境に,いくつかの優占種が確率的に定着を繰り返し,競争排除や,捕食者による餌種の完全な除去は起こりにくい状況になっている.地域的な群集多様性の大部分は,稀な種によるものである.この系の中では,食虫植物であるウツボカズラ,バクテリア,原生動物,そして後生動物の間で餌資源(主としてウツボカズラが誘引した昆虫の遺体)が利用されているが,種間相互作用は必ずしも資源競争・捕食関係だけでなく,有機物が消費の間に粉砕・分解されていく過程(processing chain)において,片利共生あるは相利共生的関係も存在するものと考えられる.
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