イネ・3型カルボキシペプチダーゼ(CPD3)遺伝子はイネ種子発芽時において糊粉層特異的に植物ホルモンであるジベレリン酸(GA)により発現誘導を受けるが、本研究ではこの遺伝子を用いて植物ホルモンによる遺伝子発現制御機構に関する知見を得ることを目的として実験を進めた。CPD3遺伝子より調整した各種プロモータ断片とGUS遺伝子を連結したレポーター遺伝子を用いて、オート麦・糊粉層より調整したプロトプラスト内での一過性の発現を見ることにより、GAにより発現誘導を受ける配列が転写開始点より上流90bpから273bpの間に存在することが確認された。この限定されたプロモーター断片に対するオート麦糊粉層核抽出物の結合状態をゲルシフト法を用いて解析した結果、183bpからなる配列内のA/T配列に富んだ領域に核内因子が結合していることが明らかになった。実際、このプロモーター配列内には非常にアデニン残基に富んだ領域が存在しているので、より詳細な核内因子の結合部位を同定するためフットプリント解析をおこなったところ、GA応答性遺伝子間に共通に見出されているピリミジンbox、TAACAGAboxを中心にして核内因子が結合していることが示唆された。GAの作用時、非作用時においてもゲルシフト解析においては同様にシフトしたバンドが検出されたが、フットプリント解析における核内因子の結合部位においては明確な違いを示した。GAの非作用時においてはピリミジンboxを中心にして核内因子が結合しており、GAの作用時にはTAACAGAboxにフットプリントが示された。特に、TAACAGAboxについては動物の癌原遺伝子産物であるMybのDNA結合配列(AACNG)を含んでいるので、ジベレリン酸の作用過程において植物のMyb相同物が重要な役割を担っている可能性が推定され、現在この点について詳細な研究を進めている。
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