最初に、色素体ゲノムの機能解析に用いる単離色素体核の性格付けを行った。単離色素体核は高次構造がよく保たれ、転写・DNA合成活性も高いうえ、可溶性のDNA/RNAポリメラーゼやヌクレアーゼの活性をほとんど含まない等、転写・複製活性の測定に適している。本研究では、単離色素体核のin vitro転写・DNA合成系を用いて、タバコ培養細胞のBY-2の原色素体とアミロプラスト、およびタバコ葉肉細胞の葉緑体の三者について色素体ゲノムの転写・複製機能を比較した。通常の培養条件におけるBY-2の増殖過程では、原色素体ゲノムの複製は細胞増殖の極初期(植え継ぎ後24時間以内)に一過的に約5倍に活性化され、原色素体DNA量は著しく増加する。一方、転写活性は培養過程を通じてほぼ一定である。また、アミロプラスト分化を誘導したBY-2では、色素体のDNA複製はあまり活性化されず、転写活性も誘導開始後24-48時間で1/3から1/4に低下する。しかし、転写産物量は減少しないことから、アミプラストでは転写産物の寿命が極端に長いと考えられる。この時、psbA遺伝子の転写活性は例外的に比較的高く保たれ、そのmRNAは増加を続けることがわかった。一方、葉肉細胞の葉緑体とBY-2の原色素体の比較では、単離葉緑体核の転写活性は単離原色素体核の約15倍の値を示したが、DMA合成活性は約1/3と低かった。転写活性の増大の程度は個々の遺伝子ごとに異なり、転写の活性化と転写産物量の増大の間には正の相関がみられた。この結果は、葉緑体分化にともなう色素体遺伝子の発現制御には、転写レベルでの制御が重要であることを示唆する。単離色素体核のDNAタンパク質をサウスウェスタン法により調べたところ、それぞれの色素体核に特徴的なDNA結合タンパク質が検出された。DNA結合タンパク質の違いが色素体核の構造と転写・複製機能に及ぼす影響を探るため、単離色素体核をDNAとタンパク質に解体した後、再構成する系を現在開発中である。
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