本研究では、葉緑体psbD/C遺伝子クラスターに存在する青色光応答プロモーター(D/C-3プロモーター)を対象に、青色光に応答した葉緑体コードの遺伝子の活性制御機構を分子レベルで解明することを目的として研究を進め、青色光応答プロモーターを活性化する転写因子の精製を行いその実体がDNA結合タンパク質であることを明らかにすると同時に、青色光応答プロモーターの成熟葉緑体における光応答性について検討した。 1.[青色光応答D/C-3プロモーターの光応答性の検討]成熟葉緑体中でのD/C-3プロモーターの光応答性を、他の葉緑体プロモーター(psbA、D/C-4プロモーター)と比較した結果、D/C-3プロモーターは可逆的に光照射で活性化され、暗所で不活性化されることがわかった。D/C-3プロモーターからの転写産物がコードするD2、CP43蛋白質のターンオーバーもD1蛋白質と同様に光強度に依存して加速されることから、青色光に応答したD/C-3プロモーターの活性化が、これらの蛋白質の光依存的なターンオーバー制御と関係している可能性が考えられる。 2.[青色光応答転写因子の精製と解析]成熟葉緑体の抽出物を疎水カラムクロマトグラフィーにより分画し、青色光応答D/C-3プロモーターを特異的に活性化する画分を得た。ゲルシフト実験から、この画分には、D/C-3プロモーター領域(-153〜+6)にシーケンス特異的に結合するDNA結合タンパク質が存在する事がわかった。また、D/C-3プロモーターの5'領域を順次欠失させたテンプレートを用いてin vitro転写実験を行った結果、その活性には一般的な原核生物タイプのプロモーター領域(-35、-10領域)に加えて、転写開始点の70bp以上上流の配列が必要であることもわかった。従って、D/C-3プロモーターに特有な上流域の配列が青色光応答転写に関わっていて、この領域に転写因子が結合することで転写を特異的に活性化していると考えられる。
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