被子植物を除く多くの植物は、クロロフィル(Chl)生合成系の一過程プロトクロロフィリド(Pchlide)からクロロフィリドへの還元反応に光依存性と光非依存性の二つに系を併用してChlを合成している。私は、ラン藻Plectonema boryanumを用いて光非依存性のPchlide還元系の分子遺伝学的解析を進めており、すでにオペロンを形成する二つの遺伝子chlLとchlNがこの反応に関与することを明らかにしている。最近、緑藻Chlamydomonas reinhardtiiの葉緑体DNAには、本反応に関与する第三の遺伝子chlBがコードされていることが示された。chlBのホモログと思われるORFは、ゼニゴケやマツの葉緑体DNAにも見つかっている。ゼニゴケ葉緑体DNAのORF513(chlB)断片をプローブとしたサザン解析の結果、ラン藻P.boryanumはchlBの相同遺伝子を有することが示唆された。そこで私は、P.boryanumからこの遺伝子のホモログをクローニングすることを試みた。同断片をプローブとしてP.boryanumのゲノム・ライブラリーから約6.2-kbのHindIII断片をクローニングした。その塩基配列を解析した結果、ゼニゴケのchlBと73%という高い類似性を示す508のアミノ酸残基をコードするORF(ORF508)を見出した。さらに、この遺伝子をカナマイシン耐性遺伝子を挿入することにより破壊した欠損変異株YFB14を単離し、その形質を検討した。YFB14は、上記二つの遺伝子chlLやchlNの欠損株と同じく、暗所でのみChl合成が停止し、Pchlideを著しく蓄積するという形質を示した。したがって、ORF508はこのラン藻のchlB遺伝子であり、光非依存性Pchlide還元反応には、少なくともchlL、chlN及びchlBという三つの遺伝子が要求されると考えられる。
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