光シグナル受容体の一つで独自のDNAを有する葉緑体は、光により多くの遺伝子発現が誘導される。我々は光による葉緑体遺伝子の発現制御機構についてプロテインキナーゼ(PKase)に視点をおいて解析してきた。これまでに、遺伝子発現調節に機能するとされるカゼインキナーゼII(CK-II)と、その特異基質としてmRNAの3′末端プロセッシングを制御する分子量34kDaのRNA結合因子(p34)をホウレンソウ葉緑体中に見いだし、CK-IIによるp34のリン酸化が葉緑体遺伝子の転写後制御機構に重要な生理的な役割を持つことを明らかにしている。そこで平成6年度は、p34の効率的な精製法を確立し、さらにp34と相互作用を持つ因子の検索を生化学的に行うことにより、最終的に葉緑体遺伝子の転写後制御のメカニズムを解明することを目的として研究を行った。 1.p34がssDNAに対して強い結合性を持つことを利用して、ssDNA-celluloseカラムクロマトグラフィーによってホウレンソウ葉緑体粗抽出画分からp34を効率的に単一polypeptideまで精製する方法を確立した。 2.精製p34画分中にはCK-II活性が検出され、p34は葉緑体中でCK-IIと複合体を形成していることが考えられた。 3.確立した精製法による解析から、CK-IIの特異基質となるRNA結合因子(33-39kDa)は植物種に共通して存在することが明らかになった。 4.p34の精製過程でCK-II-p34に対して強い親和性を持つ分子量46kDaのPKase(PK-46)を新たに見いだした。 5.PK-46は分子量24kDaのRNA結合性タンパク質をin vitroでリン酸化することが明らかになった。 以上の結果から、CK-IIによるRNA結合因子のリン酸化を介した葉緑体遺伝子の転写後制御機構は、植物種に共通して存在し、さらに本機構にはPKaseを中心とした数種の因子が関与していることが考えられた。
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