本研究では、コムギ・ヒストンH3遺伝子の細胞周期に依存した転写調節機構をこの遺伝子の転写調節因子であるHBP-1a(17)及びHBP-1b(c38)の機能解析を通してこれまでにない視点から明らかにすることを目的としている。本年度は、H3遺伝子の分裂組織特異的発現に関わるシス配列の同定及びHBP-1bの機能解析において非常に重要な知見を得た。 転写開始点上流を-185まで持つH3プロモーターに大腸菌のβ-グルクロニダーゼ遺伝子蛋白解析から、すでにS期特異的遺伝子発現を規定するシス配列として同定されているタイプI・エレメントが分裂組織特異的な発現にも関与していたことを確認し、さらにH3遺伝子の発現がオーキシンの一つであるインドール酢酸によって誘導されることを明らかにした。一方、HBP-1b(c38)の発現ベクターとレポーター遺伝子のコトランスフェクションによる機能解析から、本来H3プロモーター中のヘキサマー配列に結合して転写の抑制に働くと考えられていたこの因子が、隣接するオクタマ-配列に結合する蛋白因子と相互作用することによってH3プロモーターからの転写を活性化するという2面的な機能を持つ可能性を明らかにした。また、HBP-1b(c38)を植物体内で過剰発現させると茎の歪曲、葉の形成阻害及び花の異常形成などが観察されたことから、この因子がヒストン遺伝子の発現だけではなく細胞の運命決定や花の形成、さらには細胞の分裂・伸長などにも関与している可能性を示した。 今後は、G1/S期移行時のシグナルがヒストン遺伝子の発現を誘導するまでの過程にオーキシンがどのようなかたちで関与しているのかを明らかにする目的で、オーキシン応答性の欠除した突然変異体との雑種の作製や、オーキシン応答配列をより厳密に決定するための変異遺伝子を持つ形質転換植物体の解析を、また、HBP-1b(c38)と相互作用するオクタマ-配列結合因子の同定を進めていく予定である。
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