気孔は、蒸散速度、光合成速度、大気汚染ガス等の有害物質の体内への侵入を調節しており、高等植物の恒常性の維持を担う重要な器官である。気孔は一対の孔辺細胞からなっており、この細胞の体積が変化することが気孔開度を決定する大きな要因となっている。孔辺細胞の体積の変化は、細胞膜に局在する様々なイオンチャンネルによって調節されており、その中でもH^+-ATPase(MHA)は孔辺細胞のイオン輸送の原動力となる膜ポテンシャルの形成や水素イオン濃度勾配の形成を行っている蛋白質である。 本研究は気孔の開閉制御機構を解明する一貫として孔辺細胞MHAの構造と活性調節機構を明らかにする目的で、そのcDNAのクローン化を行なった。ソラマメ表皮の孔辺細胞プロトプラストからPoly(A)^+RNAを単離し、λgt10をベクターとして、孔辺細胞のcDNAライブラリーを構築した。既知の細胞膜局在性ATPaseに共通して存在するアミノ酸配列からPCRプライマーを合成し、孔辺細胞由来のcDNAを増幅した。増幅されたDNAをプローブとして、cDNAライブラリーを選抜した。その結果、23個の陽性クローンを得た。これらのクローンの部分塩基配列を解析した結果、少なくとも3つのグループからなり、そのうちの二つのグループの塩基配列は既知のMHAと高い相同性を有していた。したがって、ソラマメ孔辺細胞には少なくとも2つ以上のMHAが存在していると考えられる。次に最も長いクローン(vhal)の塩基配列を決定した。vhalは3319bpの塩基配列からなり、956個のアミノ酸をコードしており、シロイヌナズナのMHAとアミノ酸レベルで85%の相同性を有していた。 vhalをプローブとしたノーザン分析の結果、MHAは葉肉細胞に比べ、孔辺細胞で約15倍強く発現していた。従って、孔辺細胞の高いイオン輸送能力は、MHAの発現が高いことが原動力となっていると思われる。
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