脊椎動物における生殖機能のもっとも上位の制御因子である生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の遺伝子発現の調節機構を解析することによって、動物の本能行動の一つである繁殖行動の発現メカニズムを明らかにすることができるのではないかという考えのもとに、昨年度より、サケ科魚類を材料として解析をスタートした。本年度は、次の2つの目標を立てて解析を行った:1.サクラマスのGnRH遺伝子の構造を明らかにする、2.環境要因によるGnRH遺伝子の発現の変動を明らかにする。本年度の研究成果として、この2つの目標に対応して、以下のような研究結果が得られた。 1.サクラマスのGnRH遺伝子をクローニングするために、サクラマスの遺伝子ライブラリーを作成した。サクラマスのI型GnRHcDNAとヒメマスのII型GnRHcDNAをプローブとしてスクリーニングした結果、I型GnRHcDNAに陽性なクローンを4個とII型GnRHcDNAに陽性なクローンを1個得ることができた。これらのクローンのサザン分析の結果、I型とII型の両GnRH遺伝子をクローニングすることができたと考えられ、現在その塩基配列の解析を行っている。今後、エクソン、イントロン構造を決定し、発現制御に関わる領域の解析を行いたいと考えている。 2.自然状態におけるサクラマスの成長、成熟にともなったGnRH遺伝子の発現の変動を明らかにするために、北海道立水酸孵化場の協力を得て、稚魚から成熟にいたる各ステージのサクラマスの脳、血液などを経時的に11回にわたって採集した。この採集は来年度秋に終了するので、その後、膜上、あるいは切片上のハイブリダイゼーション法を用いてGnRHのcDNAの定量的解析を行いたいと考えている。
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