研究概要 |
魚類の精子形成の分子機構を探るための分子プローブとして本研究ではインスリン様成長因子-IとDNAポリメラーゼβに注目して、以下の成果を得た。 1.インスリン様成長因子-I(IGF-I) 先に肝臓より単離したサクラマスIGF-I cDNAをプローブとしてサクラマス精巣におけるIGF-I遺伝子の発現を確認した。また、ギンザケIGF-I C末端ペプチドに対する抗体を用いた免疫染色によりIGF-I蛋白質の存在も確認した。現在、精巣におけるIGF-IのmRNA、蛋白質レベルでの季節変動を追跡している。 2.DNAポリメラーゼβ サクラマスの精巣ならびに肝臓より、DNAポリメラーゼβを精製した(約10,000倍)。両臓器より得た酵素標品はともに電気泳動において分子量約39kDa、等電点約6.2であり、酵素学的特性においても差が見出されなかったことより、同一分子であると考えられる。両標品のN末端アミノ酸配列をプロテインシークエンサーで解析したところ、精巣由来標品で22残基、肝臓由来標品で30残基を決定することができ、両者の間には相違点は見られなかった。これをラットのアミノ酸配列と比較したところN末端より4残基が欠如しており、30残基中6残基がラットのものと異なっていた。また、ラットDNAポリメラーゼβの等電点は約9であるのに対し、サクラマスでは6.2と大きく異なっており、一次構造の違いを反映しているものと推測された。現在、得られたアミノ酸配列をもとにサクラマスDNAポリメラーゼβ遺伝子の単離を試みており、これにより全一次構造を決定する予定である。予備的実験として精巣組織におけるDNAポリメラーゼβの活性変動を測定したところ、精母細胞の出現(減数分裂期)に伴い活性の上昇が観察され、今後精子形成に伴う同遺伝子の発現変動とあわせてより詳細な解析を行う予定である。
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