視細胞の光情報伝達系においては細胞内のカルシウムが大きな役割を果たしている。これまでに視細胞のカルシウム濃度を検出して順応を制御する調節蛋白質としてS-モジュリンが見いだされているが、S-モジュリンをカエル網膜から精製する過程において、S-モジュリンと類似した別のカルシウム結合蛋白質(s26)が発見された。そこでこのs26の生理学的機能を解明することを目的として、その網膜中での局在を検討した。 まずカエル網膜から遠心により視細胞を分離し、その水溶性分画からクロマトグラフィーによりS-モジュリンと同様の方法でs26を精製した。次にs26の部分アミノ酸配列をS-モジュリンの配列と比較し、両者の間で相同性の低い部分と同じ配列をもつような11アミノ酸残基からなるペプチドを合成した。このペプチドと担体との複合体を抗原として免疫増強剤とともにウサギに免疫し、4カ月後に抗血清を回収した。ウエスタンブロッティング法により抗血清のs26に対する反応性を確認した。 続いて、暗順応させたカエルの網膜を固定して凍結切片を作成し、上記の抗血清を用いて免疫染色を試みた。しかし組織全体の非特異的な染色しか認められなかった。そこでこの血清を、表面にs26を固定化した膜と反応させ、膜と結合した成分のみを溶出させることにより抗s26抗体を精製した。この精製抗体を用いて、再びカエル網膜の凍結切片の免疫染色を実施したところ、視細胞層の一部の細胞の特異的な染色が見いだされた。この細胞は、その形態から一部の錘体視細胞であると推定された。 したがってs26は、錘体に局在し、S-モジュリンと同様な機能、すなわちカルシウム濃度依存的に視物質のリン酸化を抑制する活性をもつ調節蛋白質であることが予想される。
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