海水および汽水域に生息するPodocopida介形虫類試料を各地の海岸での採集調査によって約50試料を得た。得られた試料は、ホルマリン固定後、アルコールで液浸試料とし、今後永く利用できるよう整理・保管された。つづいて、液浸試料より、実体顕微鏡下で介形虫標本が抽出された。 体節構造を精密に観察するため、抽出された標本はt-ブタノールを溶媒とする凍結乾燥装置を用いて生体時の形態を再現するよう努めた。凍結乾燥処理が施された標本は走査型電子顕微鏡で観察された。 観察された標本数は約220個体。15科に23属31種について体節構造の有無をについて観察した。その結果、4科6属11種において、かなり明瞭な腹節を認める事ができた。これは従来、Podcopida介形虫類では著しい体節構造の癒合の結果退化し、観察不可能とされていた認識を大きく改めるものである。また、今回観察できなかった分類群についても、今後標本の作成法を改善する事によって腹節を発見できる可能性を含んでいる。観察された腹節の数は科ごとにほぼ一定しており、高次分類群間の系統関係を考える上で全く新しい情報を提供する事が出来るであろう。ただし、腹節の有無と化石記録による各分類群の地史的な新旧との間には、現在までのところ注目すべき関係は見られなかった。 本研究を終えて新たな問題点として、次の2点を挙げることができる。 1)軟体部、特に腹部、尾部についての比較形態学的・解剖学的知見を増大させ、同時にTerminologyを再検討する(介形虫類は微小でかつ発達した背甲で覆われているため、軟体部は他の分類群に比べて形態観察が著しく立ち後れている)。 2)腹節の持つ機能形態学的意味、特に運動性(匍匐、遊泳)、生殖行動(交尾姿勢、生殖器官の大きさ)との関連性をさぐる。 これらについては、今後の課題となった。
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