研究概要 |
日本産アザミ属植物は,従来,両性花だけを咲かせる雌雄同株と思われてきた(北村他,1957;北村,1981).しかし最近,ノマアザミに花粉をまったく生産しないメス株が発見され,同種が雌性両全性異株の状態にあることが判明した(Kawakubo,1994).そこで本研究は,日本産の他の分類群に,雄性不稔がどの程度存在するかを明らかにする目的で,京都大学植物学教室所蔵のさく葉標本を観察した. 観察は,日本産のアザミ属を対象として,京大標本庫内でカバーを与えられ整理された総ての分類群(種,亜種,変種,品種,推定雑種)にわたって行った.観察では,開花した小花の雄ずいを実体鏡下で検討し,花粉生産の有無と雄ずいその退化状況に注目した。また花粉が見られなかった場合は,さらに,開花していない小花を解剖し,花粉生産の有無を確認した.京大所蔵の整理された日本産アザミ属の標本は約5000枚,同一株標本を除き,観察対象の開花していた株は4380標本であった. 観察の結果,推定雑種を除く97分類群のうち39分類群において雄性不稔株が発見された(種レベルでは,68種中29種).また,雄性不稔株では,雄ずいの不十分な集葯や,雄ずい自体の小型化などがみられ,その状態は分類群によって変異することが判明した. 発見された雄性不稔株が,即,遺伝的に固定されたメス株を意味するわけではないが,今回の観察結果は,多くの分類群がメス株を分化させた雌性両全性異株の体制をとっている可能性を暗示している.現在,雑種起源の雄性不稔をはじめ,低温障害,栄養障害などによる雄性不稔を考慮し,雌性両全性異株の可能性について検討している.
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