研究概要 |
研究計画に従い,鹿児島県桜島の潮間帯において行なった3回(7月,9月,11月)の調査で,Dipurena属のポリプの群体を7月に1個体,Cladonema属のポリプの群体を7月に3個体,9月に2個体それぞれ岩石上から採集した.これらのヒドロ虫の群体を室内飼育し,生活史及び,ポリプと遊出したクラゲの形態を既知種並びに種間で比較検討した結果以下の知見が得られた.1.Dipurena属の群体(以下Dipurena sp.とする)において,ポリプは,1環列の触手を持つD.strangulataのポリプに類似していたが,クラゲは,生殖巣の排列様式から,D.strangulataではなくD.ophiogasterのクラゲに類似していた.D.ophiogasterのポリプは,複数環列の触手をもち,Dipurena sp.のポリプと識別できる.Dipurena sp.のポリプとクラゲの形態の組み合わせはDipurena属の既知種にないことから,Dipurena sp.は未記載種であることが示唆された.2.Cladonema属の群体は,ポリプに針状触手が存在するか否かでCladonema radiatum(7月の2個体,9月の1個体)とC.pacificum(7月の1個体,9月の1個体)に識別できた.3.Dipurena sp.とCladonema属2種のポリプの形態は,(1)Dipurena sp.とC.pacificumでは,Dipurena sp.に存在する針状触手がC.pacificumには欠如している点,(2)Dipurena sp.とC.radiatumでは,刺胞構成が異なる点で識別できることが確認された.クラゲの形態では,Dipurena属既知種についての報告と同様に明確に区別がついた.また,Dipurena sp.とCladonema属2種は全て岩石上から得られ,付着基盤の種類は両者を識別する形質となりえないことが判明した. 以上の成果は,日本のヒドロ虫相解明に寄与するとともに,Dipurena属内及び近縁のグループにおける系統関係の解明を確実に進めるものとして重要である.
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