X線光学素子用のダイヤモンドには完全に近い結晶性が要求される。そこでまず最初に高品位のダイヤモンド単結晶の入手先を調べたところ、国内外でただ住友電工だけが良質のダイヤモンド単結晶の育成と供給を行っていることが判明した。本研究で用いたダイヤモンド(100)単結晶2個は、住友電工・伊丹研究所の佐藤氏の厚意により試供品として無料で提供された。 住友電工より提供された2個のダイヤモンド単結晶を、高エネルギー物理学研究所・放射光実験施設(Photon Factory、略称PF)のBL-15Cで評価した。平面波トポグラフィの光学系により、回折強度曲線の測定とトポグラフの撮影を行った。得られた回折強度曲線の半値幅は理論値とほぼ一致し、結晶中の歪みは0.1秒以下であることが確認された。また、トポグラフ写真からも結晶はX線光学素子として充分利用可能であることが確認された。 次に、ダイヤモンド結晶を移相子として用いて、水平偏光の放射光を円偏光に交換することを試みた。実験はPFのBL-15Cで行った。偏向電磁石からの白色光をSi(111)2結晶分光器で波長0.192nmに単色化し、次いで厚さ1.09mmのダイヤモンド(100)結晶で偏光を変換した。ダイヤモンド結晶を非対称111ラウエ条件より190秒ずらした時に円偏光が生成された。なお、その時の効率は約5%であった。 本研究によりダイヤモンド結晶を用いたX線移相子の有効性が示された。このダイヤモンド移相子を第3世代放射光施設のアンジュレータービームラインで用いると70%以上の効率で円偏光を生成することができ、従来の偏光可変挿入光源よりも高輝度・高偏光度のX線ビームが得られる。
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