研究概要 |
窒化スズ薄膜は,高周波反応性イオンプレーティング法により作製した。反応ガスとしてN_2を3Pa導入し,高周波出力を100Wに設定してプラズマを発生させた。原料のSnをN_2プラズマ中で蒸発させ,ガラスおよびSi(100)単結晶基板上に窒化スズ薄膜を作製した。成膜中基板バイアス電圧は0〜-80Vと変化させた。作製した試料は,X線回析により構造解析,XPSにより状態分析を行い,さらに今回備品として購入したマルチメーターを用いて,van der Pauw法により室温で電気的特性を評価した。また分光光度計を用いて,光吸収係数を近赤外から近紫外の波長領域で測定した。 作製した試料の構造はすべてアモルファスであった。これらの試料に対してXPS分析を行った結果,Sn3d,N1s以外にO1sピークが現れ,不純物として酸素が含まれていることがわかった。Sn3dピークは4つの成分に分離でき,そのうちの3つは金属Sn,SnOおよびSnO_2に対応する成分として文献値を用いた。残りの1つが窒化スズに対応する成分であると考えられる。その結果,窒化によりSn3dピークは+0.8eVの化学シフトを起こすことがわかった。一方N1sピークに対しては-1.9eVの化学シフトが観察された。基板バイアスを印加するに従って,Sn3dピーク内の窒化スズ由来の成分が増加し,N1s/Sn3dピーク強度比も増加する傾向にあった。このことにより,基板バイアス印加はSnの窒化を促進する効果があることがわかった。室温における電気抵抗率ρは,印加する基板バイアスを-80Vまで減少させるにつれて,4.4Ωcmから0.2Ωcmまで減少した。また,光吸収係数αから算出した光学ギャップE_gも減少する傾向が見られた。電気抵抗率・光学ギャップのこのような変化は,窒化の度合いと関係があると考えられる。
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