研究概要 |
本研究の目的は,各種材料と雪氷の付着・剥離メカニズムを解明することである.環境温度を-5℃に制御して氷を材料に付着させ,荷重増加速度をほぼ一定にし,氷が完全に剥離するまでせん断荷重を作用させる実験を行った.氷と材料の界面の微視的映像を倍率100倍のマイクロスコープにより採取し,界面画像データとして記録した.得られた画像データを画像処理によって二値化することにより,次の二つの値によって剥離現象を定量的に評価できるようになった(1)せん断荷重を作用させる前の界面に存在する初期欠陥(空隙)の面積割合(ボイド率).(2)剥離開始後の界面き裂長さ(き裂発生からき裂最前縁までの距離).(1)に関して,ボイド率は材料の表面粗さ,接触角と依存性がある.表面粗さの増加とともにボイド率は増加する傾向がある.これは,表面粗さが大きくなると氷生成時に,水が表面凹凸の凹部分に侵入しにくくなり,気泡状欠陥が生じやすいためと考えられる.ボイド率とせん断剥離荷重の関係では,ボイド率が約3%未満の場合,ボイド率とせん断剥離荷重の相関は少ないが,約3%以上になると,せん断剥離荷重がボイド率の増加とともに減少する傾向が見られた.ただし,本実験ではボイド率の変化する範囲は小さく,今後,ボイド率をさらに広範囲に変化させた実験を行い,ボイド率とせん断剥離荷重の関係をより明確にするとともに,容易に測定できる材料の表面特性値からボイド率を予測する方法等を確立していく必要がある.(2)に関して,荷重増加速度が一定の場合,約0.03秒内という短時間に1mm未満の長さのき裂が発生する.その後のき裂の進展過程は三段階に分けられ,き裂速度が次第に減少する一次領域,き裂速度がほぼ一定となる二次領域を経て,き裂速度が急激に増加する三次領域に移行し,完全剥離へと至る.この進展過程は,特に材料の表面粗さによって変化が見られ,今後さらに検討していくべきである.
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