本研究は、任意の熱間塑性加工プロセスにおいて発生する残留応力を解析的に予測し、ヒューマンフレンドリーな形で情報を提供するシステムを検討することを目的としている。本年度の研究では、まず第一に、蓄積変形エネルギーを用いて加工履歴が材質変化に及ぼす影響を評価する材質変化予測手法を熱弾性構成式に導入し、任意の加工履歴に適用できる熱弾塑性構成方程式を作成した。この構成方程式を用いることにより、加工中のひずみ速度履歴、温度履歴、加工硬化、回復、組織変化の影響を正確に評価することができる。そこで次に、本構成式を用いて熱弾塑性有限要素法プログラムを作成した。静的陽解法に従い、4接点アイソパラメトリック要素を用い平面ひずみ問題として解析した。さらに、解析結果を表示するためのグラフィックプログラムを作成し、残留応力・残留ひずみの可視化を行った。これにより残留応力分布を直観的に理解できるヒューマンフレンドリーなシステムを構築した。 本システムの妥当性を検討するために、3点曲げ試験における残留応力分布の解析を行い、荷重付加時、除荷時、および様々な温度で焼鈍した時の残留応力分布を比較した。材料はフェライト系ステンレスSUS430Fとした。その結果、荷重付加時と除荷時の残留応力・残留ひずみ分布の変化、さらに昇温による残留応力低下が確認でき、加工および熱処理による残留応力発生機構が確かめられた。この3点曲げ試験では変形量は小さく、材料内に蓄積された蓄積変形エネルギーが非常に少ないため、焼鈍による回復は生じないので、純粋に昇温の効果のみにより残留応力が変化する。そこで実験的に同等な3点曲げ試験を行い、X線を用いて残留応力を実測したところ、焼鈍による応力低下は解析値とよい一致が見られ、本解析法の妥当性が確認できた。また平面ひずみ圧縮にて10%まで圧縮し焼鈍したところ、回復の効果が明らかに見られた。 このように本解析手法が、温度効果、ひずみ速度効果、回復の効果を正しく評価して残留応力を解析できることが確認できた。システムの基本的な構成は完成しており、任意の加工履歴・温度履歴に適用可能である。さらに変態等の組織変化が生じるプロセスにも適用可能である。よって本システムを利用することにより、任意の熱間加工により生じる残留応力を直観的に理解できる視覚的なデータとして表示することが可能である。
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