研究概要 |
本研究は,高圧燃料噴射によって形成した均一過濃予混合気の自着火限界および窒素酸化物の低減化の可能性をディーゼル機関を用いた試験結果の熱力学的解析ならびに化学動力学的数値計算によって明らかにすることを目的として行った.研究では,小型直接噴射式ディーゼル機関の燃料噴射圧力,噴射時期,ノズル噴孔径,噴孔数を種々に変更して排気および燃焼特性値を実測しその熱発生率を解析した.その結果,燃料噴射ノズルの噴孔径を従来の0.29mmから0.22mmまで低減し,100MPa以上の噴射ピーク圧力で燃料を噴射すれば,燃料/空気の平均当量比が1以上の過濃範囲でも安定して自着火し,窒素酸化物の排出濃度も低いことが明らかになった.これは小噴孔径と高噴射圧化とによって燃料/空気の混合気が過濃でしかも均一化したためと考えられるが,燃料-空気の反応に関しては不明なため,メタン-空気の均一系の素反応に関する化学動力学を用いて当量比0.7の希薄および1.2の過濃混合気の着火温度および化学種や燃焼生成物の時間変化を調査した.これによれば,化学的着火遅れは過濃混合気の方が約0.2ms長くなるが断熱火炎温度はほぼ同一であるものの,一酸化窒素NOは希薄な方が高い濃度を示す.これはNOが過濃混合気の燃焼によって生じた水素ラジカルHよって還元されるためであるが,一方でHNOも生じ易くこれがNOを生成する.したがって,最低NO濃度は混合気の当量比を1.2以上にしてもあまり変化しないため,過濃予混合気の自着火限界は最低NO濃度によって制約されることが推定された.この点に関しては,今後,過濃な高圧噴霧内の着火前後の化学種濃度変化の実測によって解明して行く計画である.
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