研究概要 |
沸騰現象を利用する冷却は、古くから工業上多く利用されてきた。この沸騰冷却を特性づける物理量の一つが蒸気膜の崩壊温度に対応する極小熱流束点温度(MHF点温度)である。このMHF点温度に関して、過去、多くの研究がなされているものの、この温度は表面熱特性、被冷却物体の支持法等に敏感に影響を受け、工業上の応用の際には、従来の相関値になることはほとんどない。特に、この傾向はサブク-ル沸騰に対して顕著である。この現象の主因として、局所的な低温度部より蒸気膜の崩壊が始まり被冷却物体全体に伝播する影響が挙げられる。この場合、局所的な低温度部と大部分の高温な蒸気膜残存部の共存により、蒸気膜の崩壊温度であるMHF点温度はみかけ上高温度化する。本研究は、工業上重要となる、この伝播的膜沸騰蒸気膜崩壊現象を局所的な低温度部温度に注目して実験的に検討した。 当該年度は、研究初年度であるため、実験装置の計画・設計及び製作の後、飽和沸騰下の実験を主に行った。実験は、直流安定化電源により直接通電加熱される水平白金細線を伝熱面とし、イオン交換水を試験液とする系で行った。局所的な低温度部として、この白金細線両端に温度を任意に設定できる銀電極を取り付けた。この銀電極が450,400,300,275,250℃それぞれに保持された状況下の蒸気膜崩壊温度(MHF点温度)と蒸気膜崩壊時の熱伝達特性(遷移沸騰熱伝達)を測定し、伝播的蒸気膜崩壊現象に及ぼす局所的な低温部温度の影響を検討した。この結果、局所的低温部温度の減少とともに、MHF点温度は高温度化し、蒸気膜崩壊の伝播速度は減少することを示した。特に、この低温部温度が過熱限界温度以下に低下すると、MHF点温度が顕著に上昇し崩壊速度が大きく減少すること、また、この蒸気膜の崩壊特性(伝播速度)が流下液膜のリウェッティング特性の拡張で表現できることを明らかにした。
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