研究概要 |
本研究では,マニピュレータの見かけ上のダイナミクス,中でも慣性項(アームの質量)をどの程度零に近づけられるか,その限界をH∞制御理論に基づき周波数領域で議論し,さらに,実際に高性能ロボットアームを開発し,H∞制御の有効性を実証することを目的とした.まず,より直接的な操作感を得ることを目的とし,マスタスレーブシステムにDD(ダイレクトドライブ)モータを採用した.DDロボットでは,電流を制御することによって,関節トルクをほぼ正確に制御できる.本研究では,DDモータの中でも,比較的摩擦の少ない高性能モーターを用い,アーム先端には6軸の力覚センサを装着した.構造材にはアルミダイカストを使用し高剛性を達成し,一部にCFRP材を用いて軽量化を図った. 現在,モデル化誤差やパラメタ変動に対して頑健な制御系を構成することを目的としたロバスト制御の重要性が強く叫ばれている.H∞制御は,閉ループ系の伝達関数の最悪ケースを抑えるH∞ノルムを尺度としており,古典制御理論に見られた周波数領域での性能評価に基づいた設計手法であり,モデルの不確実性を定量的に取り込める.また,数学的プロセスによって補償器が導け,解の有無が明確にわかり,設計の限界もあらかじめ把握できる. 本研究では,見かけ上の質量の大幅な低減を目的としたインピーダンス制御をフィードバック補償によるモデルマッチングにより実現するための枠組みを提案した.モデルマッチングおよびモデルの不確かさに対するロバスト安定性をH∞ノルムを用いて表現し,一般化制御対象を求めた.次に,この一般化制御対象を等価変換するこで,H∞標準問題に帰着させた.提案した一般化制御対象を用いて補償器を設計し,シミュレーションおよび実験の両面からその有効性を確認した.目標インピーダンスとしてアームの慣性および粘性を0.2倍に設定した場合において,約30rad/secの周波数帯域まで目標インスピーダンスを実現した.
|