研究概要 |
薄膜形成に先立ち、直径2cm、厚さ5mmのペレットを焼結し、これを粉砕した粉末においてX線回折像およびヒステリシスループの測定を行ったところNi^<2+>で置換を行ったペレットにおいて置換量の増加に伴って、異方性が減少し、保磁力および残留磁化比の減少が観察された。一方、薄膜形成においては、原料に用いたCuF_2,NiF_2,CoF_2の純度が低かったこと、ターゲット作製条件の最適化に手間取ったこと、置換により結晶化温度が上昇したこと等の理由により、優れた結晶性や磁気特性をもつ膜の作製が困難であった。そこでBaF_2を原料として用いてO^<2->の5%をF^-で置換した焼結体ターゲットを作製し、対向ターゲット式スパッタ法により薄膜を形成した。スパッタガスには一般的に用いられるArとO_2に加えてXeを加えた混合ガスを用いることで、良好な結晶学的・磁気的特性を持ったBaMフェライト薄膜の作製を目指した。基板温度は600℃一定とし、ガス圧は本研究費にて備品として購入したマスフローコントローラにより、全ガス圧0.2Pa一定,O_2ガス圧0.02Pa一定とし、Xeガス分圧を0〜0.18Pa、Arガス分圧を0.18〜0Paと変えて膜作製を行った。エピタキシャル用下地層としてZnO層約2000Åを基板温度300℃、Ar分圧0.1Pa、O_2分圧0.1Paの混合ガス中で、表面熱酸化Si基板上に堆積した。 Xe分圧の増加とともに(008)ピークよりsherrerの式により算出した結晶子サイズ<D>は増加し、c軸分散度Δθ_<50>は減少して、Xe分圧0.15Paにおいて、<D>は23.84nm、Δθ_<50>は約3.8°と最も小さく良好な結晶特性が達成された。磁気特性に関しては、飽和磁化はXe分圧0.1Paにおいて最大値3.6kGとさほど大きな値は得られず、保磁力もXe分圧に関わらず垂直・面内両保磁力H_<c⊥>とH_<c〃>が2.5kOe以上および0.3〜0.4kOe程度と予想された保磁力の低下は起こらなかった。さらに、ヒステリシスループより求めた実効異方性磁界H_<k(eff.)>が7.5kOeとフッ素置換を行ったことで逆に若干大きくなった。H_<c⊥>やH_<k(eff.)>結晶子サイズの増加によっても減少するが、フッ素置換を行った膜の方が、概して結晶子サイズは小さくなっており、今後さらにサンプルを作製して、検討する必要がある点である。ただし、本研究から得られた結果から、F^-の置換が飽和磁化、保磁力および結晶磁気異方性に変化を与えることが判明し、フッ素置換がBaフェライト膜の磁気特性制御の点からも有効な一手法であることが確認できた。
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