水素化アモルファスSi薄膜半導体の研究のなかで、極めて重要な課題の一つに、バンドギャップ中にエネルギー的に広く分布する局在準位の物性解明がある。局在準位の存在は、太陽電池の光電変換効率を低下させる、または薄膜トランジスタの動作しきい値電圧を増加させるなど、アモルファスSi材料の各種デバイス応用を考えるとき、避けては通れない問題である。局在準位の物性-例えば、準位密度、エネルギー分布、荷電状態、キャリア捕獲(再結合)効率など-の詳細について、これまで様々な実験的あるいは理論的アプローチが繰り返されてきた。にもかかわらず、現研究段階ではその全体像が明らかにされているとは言いがたい。デバイス開発支援という物性評価の側面から見たときには、特に、p-i-n型太陽電池の光電流活性層として用いられる真性アモルファスSi薄膜について、局在準位に関する定量診断技術の確立が急務とされている。が、実際には、局在準位物性が最もわかっていないのがこの材料である。本研究では局在準位および担体輸送特性を調べるための新しいツール;周波数分解タイムオブフライト法の開発と、これに加え補助的手法;変調光電流分光法、一定光電流分光法の適用によるアモルファスシリコン材料の系統的な物性評価を行なった。結果は以下のようにまとめられる。1)荷電欠陥の近傍に存在するテイル準位はクーロン力のため実効的に捕獲効率が増大し、担体輸送における主要なトラップ準位として働く。2)伝導帯側には浅いトラップ準位(〜0.3eV)が存在しており、深い欠陥準位と同様、長時間光照射により顕著な増加を示す。3)テイル分布または欠陥密度評価法のスタンダードとみなされている一定光電流分光法では、本質的な誤差が生じその程度は設定光電流値(擬フェルミ準位の位置)に依存する。
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