イオンプレーティング法は、プラズマ中でイオン化させた金属蒸気を、負電圧を印加した基板に向かって加速・衝突させて薄膜形成する方法である。本研究は、イオンプレーティング技術を用いた高密度磁気記録媒体の新たな高速作製の可能性について検討することを目的とした。研究開発用小型イオンプレーティング成膜装置は市販されていないので、本研究ではまず装置を設計・製作した。Coなどの磁性金属は融点が高いので、蒸発手段としてArガス中でのアーク放電を利用することにし、放電用に直流アーク溶接機の電源を流用した。成膜室は300φのフィードスルーカラーとガラスベルジャーで構成した。プラズマは、周波数13.56MHz、最大出力300Wの高周波電力を、整合器を介してチャンバー内に設けたアンテナに供給して発生させた。Arガス圧を0.2Torr、アーク放電電流を30Aに設定し、陽極であるモリブデン棒を陰極のCo-Cr板に接触させると、アーク放電が開始する。その後、数秒間は陰極上をアークスポットが動き回り、CoとCr原子が蒸発する。この操作を30回程度繰り返してポリイミド基板上に1.2μm厚のCo-Cr薄膜を作成した。このとき、スパッタ成膜法より1桁以上高い250nm/minの成膜速度が実現できた。作成した膜では、スパッタ成膜したものと同程度の良好な表面平滑性と、基板密着性が得られた。また、振動試料型磁力計による磁化測定によって、磁性薄膜が形成されたことを確認した。 以上、本研究において、アーク放電を蒸発源として利用したオリジナルなイオンプレーティング成膜装置を設計・製作し、本装置を用いてスパッタ成膜法よりも高速でCo-Cr磁性薄膜を作成することに成功した。今後、成膜時の基板温度、基板加速電圧、イオン化率などの最適化を計ることにより、高密度記録に適した磁気特性を持つ記録媒体の作成が期待できる。
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