研究概要 |
光沢は物体の表面状態はもちろん色,形状,目の順応状態などによって様々に変化する。しかし,JIS Z8741に規定されている光沢度測定方法では得られた物理的光沢度が必ずしも人間の知覚する心理的光沢度に一致しない場合がある。本研究の目的は,心理的光沢度に一致する物理的光沢度を定義し,新しい測定方法を提案することである。まず最初に,明らかになっていない心理的光沢度の測定を行った。心理的光沢度と色および形状の関係については既にいくつか報告されているので,本研究では目の順応状態と心理的光沢度の関係を調べた。実験は暗室で行った。左目と右目を別々の順応状態にして左右別々の目に映る物体の心理的光沢度を比較する方法をとった。その結果,同一物体であっても順応状態によって心理的光沢度が変化し,順応光強度が高くなるにつれて心理的光沢度が増加することを明らかにした。また,順応光強度と心理的光沢度の関係は,順応光強度と人間の知覚する心理的明るさの関係と非常に類似した傾向にあることを示した。次に,心理的光沢度に一致する物理的光沢度を定義するために,網膜モデルを用いた光沢知覚モデルについて検討した。そして,網膜の空間感度分布特性に類似した空間フィルタで畳み込んだ物体の画像が心理的光沢度と非常に相関性があることを明らかにした。この結果に基づき,新しい物理的光沢度を定義した。この時,空間フィルタの解像度を物体の明るさによって変化させた。さらに,この物理的光沢度を測定するための装置を試作した。この装置はTVカメラ,モニタ,パソコン,画像処理部より構成される。この装置を用いて種々の物体の物理的光沢度を測定し,別途人間の視感判定によって測定した心理的光沢度と比較したところ,両者は非常によく一致することがわかった。以上より,心理的光沢度に一致する物理的光沢度の測定法が提案できた。
|