研究概要 |
森林流域における水質浄化機能の定量評価する手段として,流域内における物質循環機構を的確に表現できる数理モデルの開発を行った。本モデルでは流域内で溶存物質は雨水の流動にともなって移動するとの仮定に立っている。そこで、徳島県白川谷森林試験流域での雨量・流量・水質データを基にして、溶存物質の流動特性と渓流水質形成機構を把握するために、研究代表者らのグループが開発した森林水循環モデルによって流出成分の分離を行い、渓流物質濃度変化との関係について検討を行った。その結果、溶存物質を渓流へ運搬する流出成分は時間とともに変化することが示された。特に硝酸イオンのように濃度の鉛直分布が明瞭に現れる物質において顕著であった。このことは、雨水の浸透にともなう溶存物質の降下とそれの搬送に当たる流出成分の同定を的確に行う必要性を示唆している。 以上の結果を踏まえ,森林流域における溶存物質の流動機構を表現するために、先述の森林水循環モデルを基礎として流域を直列に連結した2つのタンクで表現する物質流出モデルを構築した。一般に、溶存物質は単に雨水とともに移動するのみならず、植生による吸収や微生物による分解などの作用を受けるとされている。しかしながら、本モデルにおいては、モデルの基本構造の確立を主眼におくことにし、対象物質としては塩素イオンおよび硫酸イオンを選定して、雨水流動にともなう溶存物質の移流過程に加えて可動水と土壌組織に吸着された不動水に含有される物質間での交換過程(吸脱着過程)を考慮の対象とした。 本モデルを徳島県白川谷森林試験流域での観測データに適用し、塩素イオンならびに硫酸イオンの渓流水濃度の再現を試みた。その結果、いずれの溶存物質についても本モデルによって渓流濃度を良好に再現できた。
|