研究概要 |
本年度科学研究費補助金を得て、個人の嗜好の異質性を考慮した交通行動モデルの開発を行ってきた.研究の基本的な枠組みは,個人の行動をベースとした非集計行動モデルの改良である.これまで,非集計行動モデルによる個人の異質性の検出は様々なアプローチが試みられており,それらは大きく分けて3つに分類できる.第1のアプローチは,個人ごとのデータを用いて個人別モデルを推定し,そのパラメータ推定結果を用いてセグメントに分割する手法である.第2のアプローチは非集計行動モデルの効用パラメータを確率変数とおき,パラメータに適当な分布を仮定したモデルである.第3のアプローチは意思決定者の社会経済属性などを用いて外生的にセグメント決定するアプローチである.これらは基本的にその根拠の不明瞭性や,計算の煩雑さなどの理由により一般に普及しているとはいいがたかった.本研究ではまず第一に個人の異質性つまり効用パラメータの異質性を規定しているものとして,態度という潜在的変数を仮定し個人の意志決定メカニズムをパスダイヤグラムで表し,その根拠の明瞭化をはかり,共分散構造モデルを用いて態度変数を算出した.その潜在変数を用いて,個人を確率的にセグメントに配分する手法を提案しその実証的研究を既存のデータを用いて行った.その結果,計算負荷をおさえながらより適合度の高いモデルを推定することに成功した.この結果をを用いることによってこれまで均質と考えられることが多かった意思決定母集団をより現実に近い状態で再現することが可能となった.またパネルデータを用いて個人間の系列相関を考慮することでその異質性をより正確に表現することも試み,その結果を土木学会計画学研究発表会で公表した. 本研究の成果は,より簡便な形での個人の嗜好の違いを表し,非集計行動モデル改良の一方向を示したといえる.
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