研究概要 |
本研究では,近年交通行動分析においてその理論的優位性から適用が一般的になってきた「非集計行動モデル」に対して,新たな調査手法である「個人の繰り返しデータ」を用いて,その理論的・実用的展開を図るものである. まず,個人の繰り返しデータの中で,実際の行動結果のデータであるRPデータと仮想の状況における選好意思表示であるSPデータの利害損失を整理し,両データの長所を利用したモデリングを開発した。この手法は,RPデータだけからでは推定できないパラメータの同定,統計的有効性の増大,SPデータに含まれるバイアスの除去,という3つの特徴を持つものである。さらに,これらを個人における繰り返しデータに特徴的な「状態依存性」及び「系列相関」という2つの性質を考慮したモデリングを開発した。 昨年度に収集した交通機関選択に関するRPデータとSPデータを用いて,この手法で開発したモデル推定を行い,従来の手法との予測結果の違いを分析市,本手法の有効性を検証することができた。 次に,個人の複数時点の行動結果を記録したパネルデータを用いて,個人の動的行動変化特性と嗜好の異質性を取り入れたモデル構造を開発した。この手法は,マーケティングサイエンス分野で開発されている「潜在クラスモデル」の考え方を取り入れたものである。ここで開発した方法論に基づき,現在収集中の買物先選択行動のパネルデータを用いてモデル推定し,いくつかのモデル構造を比較分析した。これにより,パネルデータは行動の動的な変化特性を捉えるのに有効であるだけでなく,個人の嗜好の異質性を捉えるためにも極めて有効であることが検証された。
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