本研究では、天然に存在する各種の有害元素の長期間にわたる鉛直方向移行特性を推定することを目的として、大阪府下の京都大学原子炉実験所敷地内および茨城県内の数地点で約70cm深さまで層位別に採取した赤黄色土、黒ボク土および褐色森林土について、土壌中の環境汚染関連元素の濃度を測定すると共に、選択的化学抽出法により各層土壌中の元素の存在形態を検討した。熱中性子放射化分析法、誘導結合プラズマ-発光分析法、誘導結合プラズマ-質量分析法、グラファイト炉原子吸光法等の機器解析手法を適用し、Al、K、Na、Ca、Fe、Mg、Mn、Sr、Ba、Zn、Cr、Ni、Co、Cu、Pb、Cd、As、Se、Tl、U、Th等の元素を測定した。 全量分析の結果、得られた各地点の元素濃度の深さ方向分布には、Fe、Mnおよびしばしばこれらの元素と共に移行するCr、Co、U、Th等の元素について、溶脱・集積層の発達に、土壌母材の起源や植生、地下水位等に依存する差が認められた。一方、選択的抽出法による検討の結果、各地点において、全量分析結果からは判定できなかった、集積層の存在の可能性が示唆された。酢酸アンモニウムによる抽出結果と、純水抽出結果の、深さ方向のプロファイルは多くの元素において異なった様相を呈した。従って、純水抽出における元素の脱離は、イオン交換以外の因子により支配されるところが多いと考えられる。 本研究においては、土壌中元素の溶脱集積に関して、酸化還元過程とともに、土壌有機物が土壌型により異なった作用をおよぼしていることが示唆された。このような土壌有機物の作用について、様々な型の土壌から実際に抽出しその構造、組成等を検討することが必要と考えられる。
|