ドイツの都市計画のシステムにおいて、地域生態系保護が、具体的にどのように進められているかについて、日本の緑のマスタープラン(及び、新設の緑の基本計画)との比較を行いつつ調査・考察した。とくにドイツにおける地域生態系の保護の方法の基盤となる、ビオトープの概念と価値づけ、都市計画への導入方法について整理した。その結果、中部ヨーロッパの地理・植生や四百種以上にのぼるビオトープの調査が数十年にわたり行われ、完成されたデータベースが、ドイツ各州や各自治体での植物や動物の種の価値づけが可能であり、適正な保護実行プログラムを作成することを可能にしていることがわかった。同時に冷帯から暖温帯までひろがる日本の風土下での微細なビオトープ分類を、直接土地利用計画や自治体計画に適用することの複雑さも指摘され、既存の植物社会学的データからの類推により土地ごとの生態系の価値づけを行う可能性も見られた。1992年の日本の都市計画法改正によって、自治体に緑の基本計画の作成が制度化されたが、この作成マニュアル(日本公園緑地協会発行)においては、ビオトープの概念も採用され、地域生態系保全への重みづけが従来の緑のマスタープランよりも増している。しかしながら、日独の都市計画システム比較の結果、日本では、(1)都市計画が扱う地域が都市計画区域内に限られること、(2)都市計画において定める土地利用指針や地域地区の決定に際して地域生態系の保護の観点からみた環境親和性判定(アセスメント)が、上述のデータベースがないため行い難い点、(3)都市計画、農業振興計画、自然保護計画の各々の基盤概念が異なっているため、互いの整合性や協力関係に欠けることが指摘された。また、次段階の研究として、環境親和性判定の方法の日独比較により、日本の風土に適切な方法の研究開発が必要であることがわかった。
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