研究概要 |
本研究では、マルテンサイト相が母相から継承した長範囲規則構造の安定性を、電子線照射による拡散促進効果を利用して検証する目的で実験を行った。主に用いた合金Cu-26.3at%Zn-7.34at%Al(合金A),Cu-19.9at%Zn-12.1at%Al(合金B)の2種類である。これらの合金インゴットより電子顕微鏡用試料を作成した。電子線照射は超高圧電子顕微鏡(1MeV)を用いて行い、それによる電子線回折像の変化、特に規格格子反射の強度変化を観察・記録した。照射温度は室温〜500Kとした。その結果、以下のことが明らかとなった。 i)合金Aのマルテンサイト相では室温での照射によりdisorderingが起こった。これはマルテンサイト相における規則不規則変態温度、T_c、が室温以下にあることを示す。 ii)合金Bのマルテンサイト相では室温〜450Kでの照射でもdisorderingは起こらなかった。 iii)合金Bを500Kで[010]方向〜照射すると、基底面積層欠陥によるストリークの強度が増大し、それと共に規則反射スポットがdiffuseになった。照射を続けるとおよそ2dpaで不規則fccへと変化した。しかし[010]以外の方向からの照射ではこの様な変化は見られなかったことから、合金Bのマルテンサイトにおける規則構造は500Kでも安定であると思われる。 iv)高温での照射で得られた結果は、以前に我々が行ったX線回折と電気抵抗測定による研究結果と一致するものである。 以上により、マルテンサイト相が母相から継承した規則構造の安定性は、合金組織に大きく依存することが明らかになった。特に低Al濃度の合金におけるT_cは母相で約700Kなのに対し、マルテンサイト相では室温以下になる。これらの結果は銅系形状記憶合金の時効現象の解明に大きく寄与するものである。
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