フラーレン大量合成法の発展は、フラーレン結晶に対する物性研究者の関心を高めた。これまでに多くの物性研究が行われている。しかし、これらの物性値は結晶性に大きく左右される。したがって、大型結晶の育成と同時に成長結晶の完全性の評価は、フラーレン結晶の真性の物性を知る上で重要となる。本研究では大型で良質のC60およびC70単結晶を育成し、それらの結晶の完全性を評価することを目的とした。 C60原料粉末を十分に昇華精製し、結果として成長したC60の微結晶を大型結晶を育成するための原料として使用した。成長方法は連続引き出し気相成長法を用いた。昇華温度570℃、成長温度530℃、連続引き出し速度10mm/日とした。この成長条件を日数保持することによって、4.5×3.0×1.5mm^3の結晶を育成できた。一方、C70に関しては、設定温度がC60に比べて高くなるが、同様な手順で結晶を育成した。 成長結晶の完全性をX線トポグラフィとエッチング法によって評価した。X線トポグラフィは高エネルギー物理学研究所の放射光実験施設のBL-15Bで行った。このX線トポグラフは、結晶の端以外は完全性が高く、転位像が一本一本識別して観察できることを示した。結晶端の不完全な領域は、試料の不適当な取扱による歪みによるものであることがわかった。一方、エッチングは成長結晶をトルエンに1-5秒間浸すことによって行った。このエッチングによる完全性の評価結果はX線トポグラフィによる結果と良い一致を示した。つまり、結晶端以外は比較的完全性が高いことがわかった。さらに、エッチピットの数から結晶成長時に導入される転位の密度を求めた。結果としてC60結晶中の成長転位の密度は10^4/cm^2であることがわかった。 このような本研究における結晶欠陥、特に転位密度の定量化は、今後のフラーレン結晶の種々の物性値を評価する上で重要な知見になると期待される。
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