本研究では水晶振動微量天秤法(QCM)を微小腐食系へ適用した結果、以下のことがわかった。 1."鉄の溶解速度および不働態化"では、中性ほう酸塩およびリン酸塩水溶液中での鉄の腐食挙動にQCMを適用することで、従来測定が困難であった浸漬電位近傍の腐食速度を求めることができた。また、ほう酸塩溶液に比ベリン酸塩溶液では、腐食速度が著しく大きいことが示された。不働態化挙動については、QCM電極作製の改良が試行されている段階で、今後の課題である。 2."炭酸塩水溶液中における炭素鋼の腐食挙動"では、pH炭酸塩濃度の異なる炭酸塩水溶液中における炭素鋼の分極挙動を調べた。pH、炭酸塩濃度によって、活性溶解ピーク電流密度が大きく変化することから、活性溶解領域で沈殿物形成をともなう溶解機構であることが示された。さらに、分極曲線測定と同時に、QCMによる質量変化を測定することでこの沈殿物がFe(OH)_2・8.6H_2Oと非常に高い水和状態であることを見いだした。また、中性溶液ではアルカリ性溶液に比べ溶解が優勢に生じることが示された。 3."Al-Mo合金の耐大気腐食性"では、マグネトロンパッタリング法により水晶振動子に作製したAl-Mo合金およびAlの大気腐食系にQCMを適用した。Al-Mo合金はSO_2存在下ではAlに比べ耐大気腐食性が良好である。また、Al、Al-Mo合金とも相対湿度0%より75%のほうが腐食速度が増大する。これらの結果から推定した腐食機構により、SO_2濃度、試料表面の水膜の厚さ(相対湿度)が腐食速度に大きく影響をおよぼすことが示された。
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