ステンレス綱に発生・成長する孔食について、深さ分布の経時変化を実験的に検討するとともに、深さ分布の経時変化の特徴を支配する因子について考察した。このような実験データはこれまでほとんど報告例がなかったので、今後孔食発生環境中におけるステンレス鋼の寿命予測モデルを確立していくための基礎的データとして極めて重要である。これまでに得られた重要な結論は以下の通りである。 1)塩化鉄(III)を酸化剤とする水溶液中で、ステンレス鋼上に発生・成長する孔食深さの分布を時間、温度および電位の関数として測定した。孔食深さの分布は、約40μmを境に分布が分離するとともに、より深い分布はなだらかになっていった。 2)孔食深さ分布における最大深さの値は、成長時間の平方根に比例して増加した。これは、溶液のかきまぜに依存しなかった。また定電位下でも、同じ成長速度式が成立した。 3)自由成長している孔食に対して、所定時間定電位に分極し、再び電位を解放すると、その電位応答から、定電位分極間に孔食が再不動態化したか否かを調べることができた。 4)3)の方法を用いて、予め適当な深さに成長させた孔食の再不動態化挙動を電位と時間の関数として調べたところ、浅い孔食は比較的貴な電位で短時間で再不動態化したのに対し、より深く(数+μm以上)成長した場合は、より卑な電位とより長い時間が再不動態化に必要であった。 5)自由腐食下のように、電位が変動する場合は、電位の変動に伴って、孔食がその成長度合いに応じて、再不動態化したり、再活性化したりするなどして、複雑な深さ分布を形成していく。特に深さ40μm以下の孔食は、電位的にも時間的にも再不動態化しやすいため、電位低下によって成長を停止しやすく、分布に分裂が生じやすいと推定された。
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