石英ガラスに、波長133nmから594nmにかけて異なる15本の発振ラインを持つ真空紫外ラマンレーザーのすべての波長を同時に照射することによって、アブレーションによる微細加工の研究を行った。その結果、ポンプレーザーであるNd:YAGレーザー4次高調波(波長:266nm)のみで加工を行うより優れた加工形状(具体的には、加工表面レーザー光の空間強度分布を反映し平坦なこと、加工部周辺にクラックが発生しないこと、デブリーの再付着が少ないこと等)が得られた。この多波長照射効果によるアブレーションメカニズムを解明することを目的として、二つの実験を行った。最初は短波長光である真空紫外光の定常的照射効果を調べるために、真空紫外ラマンレーザーの各波長成分をプリズムによって分離し、二つの異なる波長を連続的に照射した。つまり、まず160nm光を100パルス予備照射し、その後同一領域にポンプ光(266nm)連続照射した。この場合、真空紫外光の予備照射領域の方を面積で1/100程度小さくしたが、ポンプ光の連続照射によって予備照射領域のみが選択的にアブレーションされた。この原因を調べるために、予備照射領域の石英ガラス中の原子の結合状態をX線光電子分光法(XPS)によって分析したところ、Si-O結合が光分解されSiO_x(x<2)が形成されていることが明らかとなった。このSiO_xの形成によってポンプ光に対する吸収が増加し、アブレーションが生じると考えられる。実際、予備照射を行うことによって、1パルスあたり吸収が数%程度増加することが確認された。一方、過渡的効果を調べるために、真空紫外ラマンレーザーの全波長を同時照射中のポンプ光の吸収率変化を測定した。その結果、真空紫外光照射中において吸収率は瞬間的に最大65%に増大する。このような急激な吸収率変化は、真空紫外光によって形成された励起準位によるポンプ光の吸収であると推測される。以上のように、多波長同時照射アブレーションにおいては定常的効果と過渡的効果がプロセスに寄与しているが、1パルスあたりの吸収率変化から考えて過渡的効果が支配的であると結論される。
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