水性二相分配系を利用して、分子構造より巨視的レベルでの各種物性値の予測を可能にするため、アミノ酸、直鎖ペプチド、合成環状ペプチドおよび高次構造既知のタンパク質の分配挙動を測定した。さらに、物性値を予測する方法を開発するために、各アミノ酸やペプチドの末端基が、ペプチドと高分子、溶媒および電解質との相互作用に与える影響について、系統的に以下のような研究を行った。 1.環状ペプチドの合成:直鎖状ペプチドの末端基の寄与を取り除くため、タンパク質合成装置を用いて、単純な構造の環状ペプチドなどを合成した。合成した環状ペプチド溶液から不純物等を除去するために、液体クロマトグラフィとカラムにて、ペプチドを精製した。 2.液液平衡、相転移実験:ポリエチレングリコール、デキストランなどの親水性高分子を用いて、水性二相系およびゲル相分離系を形成した。相分離測定には、曇り点観測法、フラスコ浸とう法、分光分析法を用いた。相転移については、レーザー光散乱法で測定した。 3.分配平衡実験:上述の水性二相系に対して、生体関連物質でこれまで測定されていない環状・直鎖ペプチド、タンパク質の分配係数を系統的に測定した。測定には、全窒素分析装置、吸光光度分析装置を併用した。直鎖、環状のペプチドの測定結果からペプチドの末端基が高分子・溶媒、電解質との相互作用に与える影響について知見を得た。 4.タンパク質の分配挙動の理論的予測:既に、我々が芳香族炭化水素類の分配係数の推算において、その有用性を示したモレキュラーコネクティビティを用いるグ-ルプ溶液理論を拡張し、タンパク質を構成するアミノ酸と溶媒・電解質・高分子間の相互作用に関して相関を試み、高次構造既知のタンパク質の水性二相系に対する分配挙動を表現するグ-ルプ溶液モデルを提案した。
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